1-5 精神疾患の医療体制の構築に係る指針


[通知] 疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について

精神疾患の医療体制の構築に係る指針

精神疾患は、症状が多彩にもかかわらず自覚しにくいという特徴があるため、症状が比較的軽いうちには精神科医を受診せず、症状が重くなり入院治療が必要になって初めて精神科医を受診するという場合が少なくない。また、重症化してから入院すると、治療が困難になるなど、長期の入院が必要となってしまう場合もある。しかしながら、精神医学の進歩によって、発症してからできるだけ早期に必要な精神科医療が提供されれば、回復又は寛解し、再び地域生活や社会生活を営むことができるようになってきている。
精神疾患に罹患しても、より多くの方がそれを克服し、地域や社会で生活できるようにするため、患者やその家族等に対して、精神科医療機関や関係機関が連携しながら、必要な精神科医療が提供される体制を構築する必要がある。
本指針では、「第1 精神疾患の現状」で精神疾患の疫学や、どのような医療が行われているのかを概観し、「第2 医療機関とその連携」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に即して、地域の現状を把握・分析し、また各病期に求められる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とさらにそれらの医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価まで行えるようにする。


第1 精神疾患の現状

1 精神疾患の疫学
(1) 精神疾患の範囲
精神疾患にはさまざまな定義が存在するが、本指針では、主に世界保健機関(WHO)による国際疾病分類第10版(ICD-10)の「精神および行動の障害」に記載されている疾患を対象とし、福祉サ-ビス等との連携も考慮し、現行の精神障害者保健福祉手帳1の対象となっている「てんかん」も対象とする。また、近年患者数が増加している「うつ病」と「認知症」、さらに、精神科救急や緩和ケアなど精神医療が関わる分野についても、考慮することとする。
(2) 精神疾患の現状
精神疾患は、近年その患者数が急増しており、平成20年には320万人を超える水準となっている2。我が国での調査結果では、国民の4人に1人(25%)が生涯でうつ病等の気分障害、不安障害及び物質関連障害のいずれかを経験していることが明らかとなっている3。また、WHOによると、世界で1000人に7人(0.7%)が統合失調症に罹患している4。
自殺者数は、平成10年以降14年連続で3万人を超える水準となっており、その要因うち、健康問題の中では、うつ病が多くなっている5。
精神疾患にはこのほか、発達障害や、高齢化の進行に伴って急増しているアルツハイマ-病等の認知症等も含まれており、精神疾患は住民に広く関わる疾患である。
また、精神疾患は、あらゆる年齢層で疾病により生じる負担が大きく、また、精神疾患にかかると稼得能力の低下などにより、本人の生活の質の低下をもたらすとともに、社会経済的な損失を生じている6。

2 精神疾患の医療
(1) 予防
高血圧や糖尿病、がんなどの予防はエビデンスに基づいた方法が確立しているが、精神疾患については、その必要性は認識されているものの予防の効果を実証することが困難であり、具体的な方法は確立されているとはいえない。しかし、適度な運動や、バランスのとれた栄養・食生活は身体だけでなくこころの健康においても重要な基礎となるものである。これらに、心身の疲労の回復と充実した人生を目指す「休養」が加えられ、健康のための3つの要素とされてきたところである。さらに、十分な睡眠をとり、ストレスと上手につきあうことはこころの健康に欠かせない要素となっている7。
(2) 診断
精神疾患の診断の基本は、充分な観察・問診による精神症状の正確な把握であり、心理検査等の検査が診断の補助として行われている。精神疾患は、内科などに比べ客観的な指標が乏しいが、近年、神経画像・脳機能画像などの技術が進歩しており、客観的診断方法として期待されている。
診断においては、身体疾患に起因する症状性精神障害なども考慮し、精神症状のみならず全身状態の把握も重要である。
また、身体疾患で内科等を受診した患者に、うつ病等の精神疾患が疑われる場合には、速やかに精神科医に紹介することにより、正確な診断が行われることが、適切な治療選択の観点からも重要と考えられる。
(3) 治療
精神疾患の治療においては、薬物療法が中心となるが、向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬)を処方する際は、必要な投与期間、出現しうるすべての有害作用に対する対処法、奏功しなかった場合の代替薬物、長期投与の適応などの知識をもとに、治療計画を患者とその家族等に説明しておく必要がある8。また、診断、治療の両方において、生物学的、心理学的、社会文化的側面を考慮できる視点も必要8であり、生活習慣の改善や、専門的な精神療法、作業療法、精神科デイ・ケアなど、薬物療法以外の治療法も重要と考えられる。
(4) 合併症の治療
精神疾患においては、その疾病の特性から身体疾患の発見が遅れがちになる。したがって、診察においては精神症状だけでなく、身体疾患の有無にも注意を払う必要がある。このため、身体疾患を合併する患者については、それを担当する内科医等と、地域の連携会議等を通じて、日頃から連携している必要がある。
(5) うつ病の医療
うつ病の診断では、うつ病だけではなく、甲状腺疾患、副腎疾患、膵疾患、膠原病、悪性腫瘍、脳血管障害など身体疾患でもうつ状態を呈することに留意し9、また、双極性障害、認知症、統合失調症などの精神疾患との鑑別も考慮する必要がある。さらに、アルコ-ル依存症との併存や、身体疾患の治療目的で使用されている薬物によるうつ病にも注意が必要である。
うつ病の診断には、上記の鑑別診断を考慮に入れた詳細な問診が不可欠であり、心理検査を補助的に用いることがある。
治療は、抗うつ薬を中心としつつ、認知行動療法等の精神療法など非薬物療法も行われている。
(6) 認知症の医療
認知症には、アルツハイマ-病、血管性認知症、レビ-小体型認知症、前頭側頭葉型認知症、正常圧水頭症など様々なものがあり、治療としては、アルツハイマ-病に対する薬物療法、BPSD(認知症の行動・心理症状)などの周辺症状に対する対応、認知症の身体合併症対応、家族に対する認知症への対応指導などが行われている10。
平成20年より、認知症の専門的医療の提供体制を強化するため、認知症疾患医療センタ-運営事業を開始し、平成24年3月1日現在、全国で155カ所の認知症疾患医療センタ-(基幹型5、地域型150)が設置されている。平成22年度(97カ所)の認知症疾患医療センタ-における電話及び面談による相談件数は61346件、鑑別診断は23597件となっている。

3 精神疾患の医療体制
(1) 精神科医療機関等の状況
病院数は近年減少傾向にあるが、平成22年に精神病床を有する病院数は1667病院、精神科病院(精神病床のみを有する病院)数は1082病院で、平成8年以降ほぼ横ばいとなっている11。また、精神病床数は、平成10年以降減少傾向にあり、平成22年に34万6715床となっている11。
一般診療所の数は、平成11年に9万1500診療所、平成20年に9万9083診療所、精神科を標榜する診療所の数(重複計上)は、平成11年に3682診療所、平成20年に5629診療所と、精神科を標榜する診療所は一般診療所の増加を上回る率で増加し、平成20年には一般診療所の5.7%を占めている12。
精神科医師数(精神科を主たる診療科とする医師数)は、平成22年に1万4201人であり、平成12年から平成22年までの間に医師全体の数は約3.9万人増加しているのに対し、精神科医師数は3138人増加しており、医師数全体の増加割合を上回って増加している13。平成12年と平成22年とを比較すると、病院に勤務する精神科医師数の増加割合は約1.2倍であるのに対し、診療所で勤務する精神科医師数の増加割合は約2倍と、診療所に勤務する精神科医師数の増加が顕著である13。
(2) 精神科救急医療(身体疾患を合併する精神疾患患者含む)
精神科救急医療の状況については、精神科救急医療体制整備事業等を通じて体制整備を図ってきている。平成22年度の事業実績によると、精神科救急医療圏148か所、精神科救急医療施設1069施設(常時対応、輪番対応及び外来対応を含む。)であり、施設数はほぼ横ばいで推移している。
一方、夜間・休日における精神医療相談窓口及び精神科救急情報センタ-への電話相談件数は、平成17年度は約8万件、平成22年度は約15万件であり、約2倍弱に増加している。また、夜間・休日の受診件数、入院件数については、平成17年度はそれぞれ約3万件、約1万2千件、平成22年度はそれぞれ約3万6千件、約1万5千件といずれも増加しており、精神科救急医療体制の充実・強化が求められている。
さらに、近年、身体疾患を合併する精神疾患患者が増加している。救命救急センタ-の入院患者のうち12%に精神医療の必要性があり、そのうち18.5%(全体の2.2%)が身体疾患と精神疾患ともに入院医療を要するとの報告がある14。また、精神病床を有する総合病院の調査から、身体疾患と精神疾患共に入院水準の患者の発生する割合は、人口万対年間2.5件との推計がある15。一方で、精神疾患を背景に有する患者は、救急搬送において医療機関への受け入れまでに要する時間が、通常の場合に比べて長時間を要している状況にある16。
以上のような状況を踏まえ、平成22年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)の一部改正により、都道府県による精神科救急医療体制の努力義務(精神保健福祉法第19条の11)が法律上規定され、平成24年4月から施行されることとなっている。このため、「精神科救急医療体制に関する検討会報告書(平成23年9月30日)」を踏まえて、「精神科救急医療体制の整備に関する指針について」(平成24年3月30日障精発0330第2号社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)が発出されており、都道府県が整備すべき精神科救急医療体制の具体的な方向性が示されている。


第2 医療機関とその連携
1 目指すべき方向
前記「第1 精神疾患の現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれら医療機関相互及び保健・福祉サ-ビス等との連携により、地域において精神医療が実施される体制を構築する。
(1) 保健サ-ビスやかかりつけ医等との連携により、精神科医を受診できる機能
(2) 患者の状態に応じて、外来医療や訪問医療、入院医療等の必要な医療を提供し、保健・福祉等と連携して地域生活や社会生活を支える機能
(3) 精神科救急患者(身体疾患を合併した患者を含む。)、身体疾患を合併した患者や専門医療が必要な患者等の状態に応じて、速やかに救急医療や専門医療等を提供できる機能
(4) うつ病の診断及び患者の状態に応じた医療を提供できる機能
(5) 認知症に対して進行予防から地域生活の維持まで必要な医療を提供できる機能
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、精神疾患の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(5)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定する。
(1) 保健サ-ビスやかかりつけ医等との連携により、精神科医を受診できる機能【予防・アクセス】
① 目標
・ 精神疾患の発症を予防すること
・ 精神疾患が疑われる患者が、発症してから精神科医に受診できるまでの期間をできるだけ短縮すること
・ 精神科を標榜する医療機関と地域の保健医療サ-ビス等との連携を行うこと
② 医療機関に求められる事項
・ 住民の精神的健康の増進のための普及啓発、一次予防に協力すること
・ 保健所、精神保健福祉センタ-や産業保健の関係機関と連携すること
・ 精神科医との連携を推進していること(GP(内科等身体疾患を担当する科と精神科)連携※への参画等)
・ かかりつけの医師等の対応力向上のための研修等に参加していること
※ GP連携の例:地域レベルでの定期的な連絡会議(内科等身体疾患を担当する科の医師でうつ病患者を発見したときの日常的な連携体制の構築、ケ-ススタディ等)の開催、精神科医への紹介システムの導入等
③ 関係機関の例
・ 保健所、精神保健福祉センタ-、地域産業保健センタ-、メンタルヘルス対策支援センタ-、産業保健推進センタ-等の保健・福祉等の関係機関
・ 精神科病院、精神科を標榜する一般病院、精神科診療所
・ 一般の医療機関
・ 薬局
(2) 精神疾患等の状態に応じて、外来医療や訪問医療、入院医療等の必要な医療を提供し、保健・福祉等と連携して地域生活や社会生活を支える機能【治療・回復・社会復帰】
① 目標
・ 患者の状態に応じた精神科医療を提供すること
・ 早期の退院に向けて病状が安定するための退院支援を提供すること
・ 患者ができるだけ長く、地域生活を継続できること
② 医療機関に求められる事項
・ 患者の状況に応じて、適切な精神科医療(外来医療、訪問診療を含む。)を提供すること
・ 必要に応じ、アウトリ-チ(訪問支援)を提供できること
・ 精神科医、薬剤師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者等の多職種によるチ-ムによる支援体制を作ること
・ 精神症状悪化時等の緊急時の対応体制や連絡体制を確保すること
・ 早期の退院に向けて、病状が安定するための服薬治療や精神科作業療法等の支援や、相談支援事業者等との連携により、退院を支援すること
・ 障害福祉サ-ビス事業所、相談支援事業所等と連携し、生活の場で必要な支援を提供すること
・ 産業医等を通じた事業者との連携や、地域産業保健センタ-、メンタルヘルス対策支援センタ-、産業保健推進センタ-、ハロ-ワ-ク、地域障害者職業センタ-等と連携し、患者の就職や復職等に必要な支援を提供すること
③ 医療機関等の例
・ 精神科病院、精神科を標榜する一般病院、精神科診療所
・ 在宅医療※を提供する病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護ステ-ション
※ 在宅医療一般については、「在宅医療の体制構築に係る指針」を参照。
(3) 精神科救急患者(身体疾患を合併した患者を含む)、身体疾患を合併した患者や専門医療が必要な患者等の状態に応じて、速やかに救急医療や専門医療等を提供できる機能【精神科救急・身体合併症・専門医療】
① 目標
・ 24時間365日、精神科救急医療を提供できること
・ 24時間365日、身体合併症を有する救急患者に適切な救急医療を提供できること
・ 専門的な身体疾患(腎不全、歯科疾患等)を合併する精神疾患患者に対して、必要な医療を提供できること
・ 児童精神医療(思春期を含む)、アルコ-ルやその他の薬物などの依存症、てんかん等の専門的な精神科医療を提供できる体制を少なくとも都道府県単位で確保すること
・ 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年法律第110号。以下「医療観察法」という。)の通院処遇対象者に医療を提供する指定通院医療機関について、少なくとも都道府県単位で必要数※を確保すること
※「心神喪失者等医療観察法に基づく指定通院医療機関の推薦依頼について」
(平成16年7月9日障精発第0709006号社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)
② 医療機関に求められる事項
・ 精神科救急患者の受け入れが可能な設備を有すること(検査室、保護室、手厚い看護体制等)
・ 地域の精神科救急医療システムに参画し、地域の医療機関と連携すること
・ 精神科救急患者を受け入れる施設では、行動制限の実施状況に関する情報を集約し、外部の評価を受けていることが望ましいこと
・ 精神科病院及び精神科診療所は、継続的に診療している自院の患者・家族や精神科救急情報センタ-等からの問い合わせ等については、地域での連携により夜間・休日も対応できる体制を有すること
・ 身体疾患を合併した患者に対応する医療機関については、身体疾患と精神疾患の両方について適切に診断できる(一般の医療機関と精神科医療機関とが連携できる)こと
・ 身体疾患を合併する患者に対応する医療機関であって、精神病床で治療する場合は、身体疾患に対応できる医師又は医療機関の診療協力を有すること
・ 身体疾患を合併する患者に対応する医療機関であって、一般病床で治療する場合は、精神科リエゾンチ-ム※又は精神科医療機関の診療協力を有すること
・ 地域の医療機関や、介護・福祉サ-ビス、行政機関等と連携できること
・ 専門医療を提供する医療機関は、各専門領域において、適切な診断・検査・治療を行なえる体制を有し、専門領域ごとに必要な、保健・福祉等の行政機関等と連携すること
・ 専門医療を提供する医療機関は、他の都道府県の専門医療機関とネットワ-クを有すること
・ 医療観察法指定医療機関は、個別の治療計画を作成し、それに基づき必要な医療の提供を行うとともに、保護観察所を含む行政機関等と連携すること
※精神科リエゾンチ-ム:精神科医、薬剤師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理技術者等からなるチ-ム。一般病棟に入院する精神疾患を有する患者等に対して、精神症状の評価を行い、精神療法や薬物治療等の診療計画の作成、退院後の調整等を行う。
③ 関係機関の例
・ 精神医療相談窓口、精神科救急情報センタ-
・ 精神科救急医療体制整備事業の精神科救急医療施設
・ 精神科病院、精神科を標榜する一般病院、精神科診療所
・ 救命救急センタ-、一般の医療機関
・ 人工透析等の可能な専門医療機関
・ 歯科を標榜する病院・歯科診療所
・ 専門医療を提供する医療機関
・ 医療観察法指定通院医療機関
なお、上記のうち、精神科救急医療体制の整備に関しては、「精神科救急医療体制の整備に関する指針について」(平成24年3月30日障精発0330第2号社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)を参照すること。
(4) うつ病の診断及び患者の状態に応じた医療を提供できる機能【うつ病】
① 目標
・ 発症してから、精神科医に受診するまでの期間をできるだけ短縮すること
・ うつ病の正確な診断ができ、うつ病の状態に応じた医療を提供できること
・ 関係機関が連携して、社会復帰(就職、復職等)に向けた支援を提供できること
② 医療機関に求められる事項
(一般の医療機関)
・ うつ病の可能性について判断できること
・ 症状が軽快しない場合等※に適切に紹介できる専門医療機関と連携していること
・ 内科等の身体疾患を担当する医師等(救命救急医、産業医を含む)と精神科医との連携会議等(GP連携事業等)へ参画すること
・ うつ病等に対する対応力向上のための研修等に参加していること
※ SSRIなどの抗うつ薬で4週間経過しても改善が見られない場合、他の精神疾患との鑑別が必要と思われる場合、双極性障害が疑われる場合、自殺念慮が強い場合など(「自殺予防マニュアル第2版~地域医療を担う医師へのうつ状態・うつ病の早期発見と対応の指針」平成20年日本医師会編集)
(うつ病の診療を担当する精神科医療機関)
・ うつ病と双極性障害等のうつ状態を伴う他の疾患について鑑別診断できること
・ うつ病の、他の精神障害や身体疾患の合併などを多面的に評価できること
・ 患者の状態に応じて、薬物療法及び精神療法等の非薬物療法を含む適切な精神科医療を提供でき、必要に応じて、他の医療機関と連携できること
・ 患者の状態に応じて、生活習慣などの環境調整等に関する助言ができること
・ かかりつけの医師をはじめとする地域の医療機関と連携していること(例えば、地域のかかりつけの医師等に対するうつ病の診断・治療に関する研修会や事例検討会等への協力)
・ 産業医等を通じた事業者との連携や、地域産業保健センタ-、メンタルヘルス対策支援センタ-、産業保健推進センタ-、ハロ-ワ-ク、地域障害者職業センタ-等との連携、障害福祉サ-ビス事業所、相談支援事業所等との連携により、患者の就職や復職等に必要な支援を提供すること
③ 医療機関等の例
・ 精神科病院、精神科を標榜する一般病院、精神科診療所
・ 一般の医療機関
・ 薬局
(5) 認知症に対して進行予防から地域生活の維持まで必要な医療を提供できる機能【認知症】
認知症の方が、早期の診断や、周辺症状への対応を含む治療等を受けられ、できる限り住み慣れた地域で生活を継続できるような医療提供体制の構築を目標とする。具体的な内容については、今後、関係部局から発出される通知に基づいて作成すること。


第3 構築の具体的な手順

1 現状の把握
都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、(1)(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握する。
さらに、(3)に示す、医療機能ごとおよびストラクチャ-・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握する。
なお、(1)~(3)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ こころの状態(国民生活基礎調査)
・ 総患者数及びその内訳(性・年齢階級別、疾病小分類別、入院形態別)(患者調査、精神保健福祉資料)
年齢調整受療率(精神疾患)(患者調査)
・ 退院患者平均在院日数(患者調査)
・ 副傷病に精神疾患を有する患者の割合(患者調査)
・ 精神科デイ・ケア等の利用者数(精神保健福祉資料)
・ 精神科訪問看護の利用者数(精神保健福祉資料)
・ 1年未満及び1年以上入院者の平均退院率(精神保健福祉資料)
・ 在院期間5年以上かつ65歳以上の退院患者数(精神保健福祉資料)
・ 3ヶ月以内再入院率(精神保健福祉資料)
・ 自殺死亡率(人口動態統計、都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
(2) 医療資源・連携等に関する情報
・ 従事者数、医療機関数(病院報告、医療施設調査、事業報告)
・ 往診・訪問診療を提供する精神科病院・診療所数(医療施設調査)
・ 精神科訪問看護を提供する病院・診療所数(医療施設調査)
・ 訪問看護ステ-ション数、薬局数(「在宅医療」を参照)
・ 精神科救急医療施設数(事業報告)
・ 精神医療相談窓口及び精神科救急情報センタ-の開設状況(事業報告)
・ 医療観察法指定通院医療機関数
・ 地域連携クリティカルパス導入率
・ GP(内科等身体疾患を担当する科と精神科)連携会議の開催地域数及び、紹介システム構築地区数
・ 向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬)の薬剤種類数
・ 抗精神病薬の単剤率
(3) 指標による現状把握
別表5に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャ-・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載する。その際、公的統計等により全都道府県で入手可能な指標(必須指標)と、独自調査やデ-タ解析等により入手可能な指標(推奨指標)に留意して、把握すること。

2 圏域の設定
(1) 都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、「第2 医療機関とその連携」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、精神疾患患者の病期及び状態に応じて、求められる医療機能を明確にして、圏域を設定する。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たっては、二次医療圏を基本としつつ、障害保健福祉圏域、老人福祉圏域等との連携も考慮し、それぞれの医療機能及び地域の医療資源等の実情を勘案して弾力的に設定する。
(4) 検討を行う場合は、地域医師会等の医療関係団体、現に精神疾患の診療に従事する者、消防防災主管部局、福祉関係団体、住民・患者及びその家族、市町村等の各代表が参画する。

3 連携の検討
(1) 都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、患者の状態に応じた総合的な支援が提供できるよう、精神科を含む医療機関、保健・福祉等に関する機関、福祉・介護サ-ビス施設及び事業所、ハロ-ワ-ク、地域障害者職業センタ-等の地域の関係機関の連携が醸成されるよう配慮する。
また、精神科を含む医療機関、消防機関、地域医師会、保健・福祉等に関する機関等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する医療機関・保健・福祉等に関する機関・医師等専門職種の情報の共有に努める。
さらに、都道府県は、精神疾患患者への対応に関する知識の向上に資する研修会の実施等により、かかりつけの医師や精神科訪問看護に従事する職員等の人材育成に努め、また医療連携の円滑な実施のため、精神疾患患者の退院支援や福祉・介護サ-ビス事業者との連携、他の診療科との連携等が推進されるよう関係機関との連絡調整に努める。
(2) 保健所は、「地域保健法第4条第1項の規定に基づく地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(平成6年厚生省告示第374号)の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」(平成19年7月20日健総発第0720001号健康局総務課長通知)を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
また、精神保健福祉センタ-においては、「精神保健福祉センタ-運営要領について」(平成8年1月19日健医発第57号保健医療局長通知)を参考に、精神保健福祉関係諸機関と医療機関等との医療連携の円滑な実施のため、精神保健に関する専門的立場から、保健所及び市町村への技術指導や技術援助、関係諸機関と医療機関等との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称を記載する。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めるものとする。

4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療機関とその連携」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の精神疾患の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載する。
その際、現状分析に用いたストラクチャ-、プロセス、アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出する。

5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な精神疾患の医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載する。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国デ-タ等を参考にするとともに、基本方針第7に掲げる諸計画に定められる目標を勘案するものとする。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定することとする。

6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策・事業を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策・事業について、医療計画に記載する。

7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載する。この際、少なくとも施策・事業の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。
また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも5年ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更することとする。
さらに、医療の質について客観的な評価を行うために、症例登録等を行うことが今後必要である。

8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表する。その際、広く住民に周知を図るよう努めるものとする


1 精神障害者保健福祉手帳の障害者等級の判定基準(平成7年9月12日健医発第1133号厚生労働省保健医療局長通知)
2 厚生労働省「患者調査」(平成20年)
3 厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」(研究代表者川上憲人)(平成18年)
4 WHO「Schizophrenia and public health」(1998年)
5 内閣府「自殺対策白書」(平成23年度)、「平成23年中における自殺の概況」(平成24年)
6 厚生労働省障害者福祉総合推進事業「精神疾患の社会的コストの推計報告書」(平成22年)
7 厚生労働省「健康日本21」
8 カプラン臨床精神医学テキスト第2版「DSM-IV−TR診断基準の臨床への展開」(監訳井上令一、四宮滋子)メディカル・サイエンス・インタ-ナショナル
9 「よくわかる うつ病のすべて –早期発見から治療まで-」(編集 鹿島晴雄、宮岡等)永井書店
10 厚生労働科学研究「精神科救急医療、特に身体合併症や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(主任研究者 黒澤尚)(平成20年)
11 厚生労働省「医療施設調査(動態)」(平成22年)
12 厚生労働省「医療施設調査(静態)」(平成20年)
13 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」(平成22年)
14 厚生労働科学研究「精神科病棟における患者像と医療内容に関する研究」(主任研究者 保坂隆)(平成18年)
15 厚生労働科学研究「精神科救急医療、特に身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(主任研究者 黒澤尚)(平成19年)
16 消防庁「平成20年度 救急業務高度化推進検討会報告書」(平成20年)