2-1 救急医療の体制構築に係る指針


[通知] 疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について

救急医療の体制構築に係る指針

我が国の救急医療の需要は増加傾向にある。救急搬送人数を例に取ると平成22年には過去最多の約498万人となっており1、この傾向は今後も続くことが予想される2。救急医療資源に限りがある中で、この需要に対応しつつ、より質の高い救急医療を提供するためには、地域の救急医療機関が連携し、地域が一体として小児救急、周産期救急、精神科救急を含め、すべての救急患者に対応できる救急医療体制を構築することが重要である。
本指針では、「第1 救急医療の現状」で救急医療の需要及び供給体制について概観し、次に「第2 医療機関とその連携」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また必要となる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とさらにそれらの医療機関間の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価まで行えるようにする。


第1 救急医療の現状

1 救急医療をとりまく状況
わが国における救急医療の受療動向は、およそ以下のとおりになっている。
(1) 救急患者数
一日の救急患者※は、全国で約2.8万人であり、うちおよそ8200人が入院していると推測される3。
※ 救急患者
救急車等によって救急搬送される患者や、休日・夜間等の通常の診療時間外に医療機関を受診する患者等
(2) 救急搬送数
救急搬送人員は、平成12年に約400万人であったが、平成22年には約498万人(98万人、24.5%増)を数えるなど、増加傾向にある1。その背景として、高齢化の進展、国民の意識の変化等が挙げられている。
(3) 高齢患者の増加
救急搬送された高齢者についてみると、平成12年には約149万人であったが、平成22年には、約254万人を数え、この10年間で約105万人増となっている。今後も、高齢化の進展とともに救急搬送件数は増大し、救急搬送に占める高齢者の割合も増加するものと見込まれる。
(4) 疾病構造の変化
昭和41年には、救急搬送全体のおよそ半数を交通事故等による外傷患者が占め、急病は39.9%(15.3万人)を占めるに過ぎなかった。ところが、平成12年には急病が54.8%(308万人)、平成22年には、61.8%(308万人)を占めるに至り1、この10年間で急病による救急搬送人員が89万人増加している。今後も急病の対応が増加するものと見込まれる。
(5) 重症患者の動向
平成22年における全救急搬送人員のうち、「重症」(「死亡」も含む。)と分類されたものをみると、「脳疾患」(7.9万人)、「心疾患系」(7.6万人)となっている。また、「急病」のうち死亡が最も多いのは、「心疾患等」である1。
したがって、重症患者の救命救急医療体制を構築するに当たって、重症外傷等の外因性疾患への対応に加えて、脳卒中、急性心筋梗塞等の生活習慣病に起因する急病への対応が重要である。
(6) 軽症患者の動向
救急車で搬送される患者のうち、診療の結果として帰宅可能な軽症者が50%程度を占める。この中の一部には不要不急にも係わらず安易に救急車を利用している例も散見される4。救急車の不要不急な利用は、救急搬送を実施する消防機関に負担をかけるのみならず、救急医療機関にも過分な負担をかけることになり、ひいては真に救急対応が必要な者への救急医療に支障を来す結果となることを住民に理解を促すことが重要である。
このような状況に対して、「救急車利用マニュアル」等の活用により国民の理解を求める等、救急車等のより適切な利用を促すための啓発活動が各地域で行われている他、国においては、緊急性の高い傷病者に確実に救急医療資源を提供するため、傷病の緊急度に応じた適切な救急対応を選択できる仕組みの検討を行っている5。
(7) 精神科救急医療の動向
各都道府県において、地域の実情に応じた精神科救急医療体制が整備されている。精神病床を有する総合病院の調査から、身体疾患と精神疾患共に入院水準の患者の発生する割合は人口万対年間2.5件と推計されており6、また、救命救急センタ-の入院患者のうち12%に精神医療の必要性があり、そのうち18.5%(全体の2.2%)が身体疾患と精神疾患ともに入院医療を要するとの報告7がある。

2 救急医療の提供体制
救急医療の提供体制は、およそ以下のとおりになっている。
(1) 病院前救護活動
① 市民への救急蘇生法の普及と、自動体外式除細動器(AED)の設置
これまで様々な主体によって、救急蘇生法の講習が行われてきた。例えば、消防機関が主体となって実施するものだけでも、近年、百万人を越える国民が救急蘇生法を受講している。
この結果、平成22年中に救急隊員によって搬送された心肺機能停止患者のおよそ42.7%に対して家族等による人工呼吸や胸骨圧迫等の救急蘇生法が実施されており、その割合は毎年上昇している1。
平成16年より一般住民の使用が可能となったAEDについては病院外設置が急速に広がり、全国で33万台近くが設置されるに至り8、地域住民の病院前救護活動への参加が今後さらに期待される。
② 消防機関による救急搬送と救急救命士等
救急隊は、一定の応急処置に関する教育を受けた3名以上の救急隊員により構成されている。平成3年からは、救急救命士制度の発足により、1隊につき1名以上の救急救命士が配置されることを目標に救急隊の質の向上が図られており、平成23年4月には94.3%の救急隊に救急救命士が同乗している1。
救急救命士については、メディカルコントロ-ル体制の整備を条件として、徐々に業務範囲が拡大され、平成18年4月からは心肺機能停止患者に対する薬剤投与が可能となった。
心肺機能停止患者への対応については、救急救命士を含む救急隊員(以下「救急救命士等」という。)の標準的な活動内容を定めたプロトコ-ル(活動基準)が策定され、全国に普及している。これによって、救急救命士等が心肺機能停止患者に対してより適切に観察、判断、処置を行えるようになり、救急救命士等の質が向上し、業務が標準化された。
これらプロトコ-ルの作成、薬剤投与等を行う救急救命士への指示・助言及び救急救命士の行った活動の事後検証等を行うメディカルコントロ-ル※体制については、各都道府県にメディカルコントロ-ル協議会を設置するなど、全国的に整備されたところである。しかし地域によっては、プロトコ-ルの策定状況の見直しを定期的に行っていないところもあるなど、その活動実態には地域差があることが指摘されている9。
※ メディカルコントロ-ル
病院前救護における「メディカルコントロ-ル」とは、救急現場から救急医療機関に搬送されるまでの間、救急救命士の活動等について医師が指示、指導・助言及び検証することにより、病院前救護の質を保障することを意味する
ものである。
平成13年より、メディカルコントロ-ル体制の整備のため、各都道府県と地域にメディカルコントロ-ル協議会の設置が開始された。
③ 搬送手段の多様化とその選択
従来の救急車に加えドクタ-カ-、救急医療用ヘリコプタ-(ドクタ-ヘリ)※、消防防災ヘリコプタ-等の活用が広まりつつある。
ヘリコプタ-による救急搬送については、ドクタ-ヘリが27府県32機(平成24年2月現在)で運用され年間9千6百件余り(平成22年度)の出動件数を数え、消防防災ヘリコプタ-についても全国で70機(平成23年10月現在)が運用され、救急搬送のために年間4千件近く出動している1。
今後も、緊急度が高く、患者の治療を行う医療機関への搬送が長距離におよぶ患者に対しては、ヘリコプタ-等の利用が期待される。
※ 救急医療用ヘリコプタ-(ドクタ-ヘリ)について
救急医療用ヘリコプタ-(ドクタ-ヘリ)を用いた救急医療が傷病者の救命、後遺症の軽減等に果たす役割の重要性をかんがみ、救急医療用ヘリコプタ-を用いた救急医療の全国的な確保を図ることを目的に、「救急医療用ヘリコプタ-を用いた救急医療の確保に関する特別措置法」(平成19年法律第103号)が、平成19年6月27日に施行された。
都道府県が医療計画を策定するに当たって、救急医療用ヘリコプタ-を用いた救急医療の確保について定めるとき又は変更するときには、「救急医療用ヘリコプタ-を用いた救急医療を提供する病院に関する事項」について記載すること、「都道府県において達成すべき救急医療用ヘリコプタ-を用いた救急医療の確保に係る目標に関する事項」及び「関係者の連携に関する事項」について記載することに努めることが求められる。
④ 傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準(実施基準)の策定と実施
平成18年から平成20年にかけて、搬送先の病院を探して複数の救急医療機関に電話等で問い合わせても受入医療機関が決まらない、いわゆる受入医療機関の選定困難事案が発生したことを契機として、平成21年5月に消防法(昭和23年法律第186号)が改正され、都道府県に、傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)の策定及び実施基準に係る協議、調整等を行う協議会(以下「法定協議会」という。)の設置等が義務付けられた。平成24年1月現在、全ての都道府県において実施基準が策定済みとなっており、今後は、実施基準のより円滑な運用及び改善が図られることになる。すなわち、法定協議会において実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入の実施状況の調査及び検証を行い、必要があるときは基準の見直しを行うなどにより、傷病者の状況に応じた適切な搬送及び受入体制を構築することが期待される。
一方、受入医療機関の選定困難事案は依然存在していると指摘されている。
救急医療機関が搬送に応じられない原因として「手術中・患者対応中」、「処置困難」、「ベッドの満床」、「専門外」、「医師不在」等が挙げられている10。
この問題を改善するためには、受入困難の原因を詳細に把握分析し、地域と消防機関、救急医療機関とが一体となり、それぞれの地域の実状に応じて対応する必要がある。
なお、救急医療機関から情報を収集し、医療機関や消防機関等へ必要な情報提供を行い、救急医療に関わる関係者の円滑な連携を構築することを目的に、救急医療情報センタ-を整備し、診療科別医師の在否や、手術・処置の可否、病室の空床状況等の情報を共有している。実施基準の運用により受入医療機関の選定困難事案を解消していくためには、これらの取組について、地域に即してより実効的、有効的に改善していく必要がある。
(2) 救命救急医療機関(第三次救急医療機関)
① 救命救急センタ-
救命救急医療を担う救命救急センタ-は、当初100万人に1か所を目途に整備してきたところである。
現在、全国に246か所(平成24年3月現在)の施設が指定されている。
② 脳卒中や急性心筋梗塞等に対する救急医療
救命救急センタ-を有する病院においては、脳卒中や急性心筋梗塞等の専門的な医療のみならず、重症外傷やその他の複数診療科にまたがる重篤な患者への医療が提供されてきた。ただし、脳卒中や急性心筋梗塞の医療は、救命救急センタ-を有する病院以外の病院等においても行われてきたところである。
今後も、これらの医療機関を含めて、それぞれの疾患の特性に応じた救急医療体制を構築する必要がある。(脳卒中及び急性心筋梗塞については、それぞれの医療体制構築に係る指針を参照)
③ アクセス時間を考慮した体制の整備
救急医療(特に、脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の救命救急医療)においては、アクセス時間(発症から医療機関で診療を受けるまでの時間)の長短が、患者の予後を左右する重要な因子の一つである。
従って、特に救命救急医療の整備に当たっては、どこで患者が発生したとしても一定のアクセス時間内に、適切な医療機関に到着できる体制を整備する必要がある。
なお、アクセス時間は、単に医療機関までの搬送時間ではなく、発症から適切な医療機関で適切な治療が開始されるまでの時間として捉えるべきである。
一定の人口規模を目安にしつつも、地理的な配置を考慮して、地理情報システム(GIS※)等の結果を参考に、地理的空白地帯を埋める形で、適切な治療が可能な救命救急医療機関の整備を進める必要がある。
※ GIS(Geographic Information System)
地図に相当する地理情報のデ-タベ-スと、表示、案内、検索等の機能を一体とするコンピュ-タシステムのこと。当該システムの活用により、救急医療機関までのアクセス時間等を計算することが可能となる。
なお、救命救急医療を必要とする患者の発生がそれほど見込めない場合や、十分な診療体制を維持できない場合は、例えば、ヘリコプタ-で患者搬送を行うといった搬送手段の工夫によりアクセス時間を短縮する等して、どの地域で発生した患者についても、一定のアクセス時間内に、必要な救命救急医療を受けられる体制を構築する必要がある。
今後新たに救命救急医療施設等の整備を進める際には、前記視点に加え、一施設当たりの患者数を一定以上に維持する等して質の高い救急医療を提供することが重要である。
④ いわゆる「出口の問題」
前述の受入医療機関の選定困難事案の原因のひとつに、「ベッドの満床」が挙げられている。
その背景として、救急医療機関(特に救命救急医療機関)に搬入された患者が救急医療用の病床を長期間使用することで、救急医療機関が新たな救急患者を受け入れることが困難になる、いわゆる救急医療機関の「出口の問題」が指摘されている。
具体的には、急性期を乗り越えたものの、重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症がある場合や、合併する精神疾患によって一般病棟では管理が困難である場合、さらには人工呼吸管理が必要である場合などに、自宅への退院や他の病院等への転院が困難とされている。
この問題を改善するには、急性期を脱した患者で、重度の後遺症等により在宅への復帰が容易でない患者を受け入れる医療機関や介護施設等と、救命救急医療機関との連携の強化が必要である。
また、同様の問題として、救命救急センタ-を有する病院において、院内の連携が十分でない等の理由により、急性期を乗り越えた救命救急センタ-の患者が、一般病棟へ円滑に 転床できずに、救命救急センタ-にとどまり、結果として救命救急センタ-でありながら新たな重症患者を受け入れることができないといった点も指摘されている。これについても、救命救急医療の機能は病院全体で担う責任があるという観点から、院内における連携体制を強化していく必要がある。
(3) 入院を要する救急医療を担う医療機関(第二次救急医療機関)
これまで、病院群輪番制病院や共同利用型病院等の整備が進められ、地域の入院機能を担う救急医療機関の確保が図られてきた。
多くの地域でこれらの体制が取られているが、その活動の実態は様々である。例えば病院群輪番制において、輪番日であっても救急患者をほとんど受け入れない救急医療機関がある一方で、輪番日に係わらず多くの救急患者を受け入れている救急医療機関があり、輪番制という実態を伴わない地域もある11。
今後は、活動の実態に即して、救急医療機関としての役割を評価していく必要がある。
また、輪番制病院制度は地域の救急医療を担う人材や設備が限られている中で、医療資源を分散して整備する必要があることや、住民・消防機関にわかりにくいといった問題もあり、一年を通じて、診療科に係わらず広く救急医療を行う医療機関について検討する必要がある。
脳卒中や急性心筋梗塞等に対する専門的な医療については、救命救急センタ-以外の救急医療機関においても実施してきたことについて前述したが、これらの病院も含め、救急搬送される患者の大部分が、入院を要する救急医療を担う医療機関へ搬送されており1、当該医療機関の更なる充実が重要である。
(4) 初期救急医療を担う医療機関(初期救急医療機関)
初期救急医療は、診療所及びそれを補完する休日夜間急患センタ-や在宅当番医制において、地域医師会等の協力により実施され、救急搬送を必要としない多くの救急患者の診療を担ってきた実績がある。
しかし、曜日、時間帯や初期救急を担う医療機関の診療科などにより、入院を要する救急医療を担う医療機関に、多くの軽症患者が直接受診することもあり、結果として、これらの医療機関が本来担うべき救急医療に支障を来す可能性が指摘されている。今後も軽症患者の救急需要の増大が予想される中、地域の実情に応じた初期救急医療を構築する必要がある。
(5) 精神科救急医療体制と一般救急医療機関等との連携
精神科救急医療は、平成7年より、精神科救急医療システム整備事業が創設され、精神科救急情報センタ-や地域の実情に応じて輪番制等による精神科救急医療施設の整備が進められてきており、さらに、平成17年からは、精神科救急医療センタ-事業が創設され、整備が進められてきた。
しかし、緊急な医療を必要とする精神疾患を持つ患者を24時間365日受け入れる体制が未だ十分でない地域もあることから、輪番制による緊急時における適切な医療及び保護の機会を確保するための機能、重度の症状を呈する精神科急性期患者に対応するための中核的な機能、さらに、休日等を含め24時間体制で精神疾患を持つ患者等からの緊急的な相談に応じ、医療機関との連絡調整等を行う精神科救急情報センタ-機能については、より一層の強化を図っていく必要がある。
また併せて、身体疾患を合併する精神疾患患者の受け入れ体制を整備する必要がある。都道府県は、精神科救急医療体制整備事業等を活用し、身体合併症対応施設の整備や、精神科医療機関と一般医療機関の診療協力を推進するための連携会議の実施等により、受け入れ体制の整備・充実を図る必要がある。
なお、精神科救急医療体制の整備に関しては、「精神科救急医療体制の整備に関する指針について」(平成24年3月30日障精発0330第2号社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長通知)が発出されており、参照されたい。
さらに、「自殺総合対策大綱」(平成19年6月8日閣議決定)に基づき、自殺未遂者の再度の自殺を防ぐために、救急医療施設における精神科医等の専門職からなるチ-ムによる診療体制、精神保健指定医による診療協力体制等の充実を図る必要がある。


第2 医療機関とその連携

1 目指すべき方向
前記「1 救急医療の現状」を踏まえ、個々の役割と医療機能、それを満たす各関係機関、さらにそれら関係機関相互の連携により、病院前救護活動から社会復帰までの医療が連携し継続して実施される体制を構築する。
(1) 適切な病院前救護活動が可能な体制
① 本人・周囲の者による必要に応じた速やかな救急要請及び救急蘇生法の実施
② メディカルコントロ-ル体制の整備による救急救命士等による適切な活動(観察・判断・処置)の実施
③ 実施基準に基づく適切な傷病者の搬送及び医療機関の受入れ
(2) 重症度・緊急度に応じた医療が提供可能な体制
① 患者の状態に応じた適切な救急医療の提供
② 救急医療に係る資源の効率的な配置とアクセス時間を考慮した整備
③ 必要に応じて、より高度・専門的な救急医療機関へ速やかに紹介できる連携体制
④ 脳卒中・心筋梗塞・重症外傷等の、それぞれの疾患に応じた医療体制
(3) 救急医療機関等から療養の場へ円滑な移行が可能な体制
① 救命期を脱するも、重度の合併症、後遺症のある患者が、救急医療施設から適切な医療機関に転院できる体制
② 重度の合併症、後遺症のある患者が、介護施設・在宅で療養を行う際に、医療及び介護サ-ビスが相互に連携できる体制

2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、救急の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(3)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定する。
(1) 病院前救護活動の機能【救護】
① 目標
・ 患者あるいは周囲の者が、必要に応じて、速やかに救急要請及び救急蘇生法を実施すること
・ メディカルコントロ-ル体制の整備により、救急救命士等の活動が適切に実施されること
・ 実施基準の運用により、傷病者の搬送及び医療機関への受入れが適切に行われること
② 関係者に求められる事項
ア 住民等
・ 講習会等の受講により、傷病者に対する応急手当、AEDの使用を含めた救急蘇生法が実施可能であること
・ 傷病者の救護のため、必要に応じて適切かつ速やかに救急要請を行うこと、あるいは適切な医療機関を受診すること
・ 電話による相談システムを用いて、適切な医療機関の受診、救急車の要請、他の交通手段の利用等を判断すること
イ 消防機関の救急救命士等
・ 住民等に対し、応急手当、AEDの使用を含めた救急蘇生法等に関する講習会を実施すること
・ 脳卒中、急性心筋梗塞等、早期の救急要請が必要な疾患について関係機関と協力して住民教育の実施を図ること
・ 搬送先の医療機関の選定に当たっては、実施基準等により、事前に各救命救急医療機関の専門性等を把握すること
・ 地域メディカルコントロ-ル協議会により定められたプロトコ-ルに則し、心肺機能停止、外傷、急病等の患者に対して、適切な観察・判断・処置を実施すること
・ 搬送手段を選定し、適切な急性期医療を担う医療機関を選定し、傷病者を速やかに搬送すること
・ 緊急な医療を必要とする精神疾患を有する患者等の搬送に当たっては、精神科救急情報センタ-を活用し、精神科救急医療体制と十分な連携を図ること
ウ メディカルコントロ-ル協議会等
・ 救急救命士等の行う処置や、疾患に応じた活動プロトコ-ルを策定し、事後検証等によって随時改訂すること
・ 実施基準を踏まえ、搬送手段を選定し、適切な医療機関に搬送するためのプロトコ-ルを策定し、事後検証等によって随時改訂すること
・ 医師から救急救命士に対する直接指示・助言体制が確立されていること
・ 救急救命士等への再教育を実施すること
・ ドクタ-カ-やドクタ-ヘリ等の活用の適否について、地域において定期的に検討すること
・ ドクタ-ヘリや消防防災ヘリコプタ-等の活用に際しては、関係者の連携について協議する場を設け、効率的な運用を図ること
(2-1) 救命救急医療機関(第三次救急医療)の機能【救命医療】
① 目標
・ 24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること
・ 傷病者の状態に応じた適切な情報や救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
緊急性・専門性の高い脳卒中、急性心筋梗塞等や、重症外傷等の複数の診療科領域にわたる疾病等、幅広い疾患に対応して、高度な専門的医療を総合的に実施する。
その他の医療機関では対応できない重篤患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。
また救急救命士等へのメディカルコントロ-ルや、救急医療従事者への教育を行う拠点となる。
なお、医療計画において救命救急医療機関として位置付けられたものを救命救急センタ-とする。
・ 脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、広域災害時を含めて24時間365日必ず受け入れることが可能であること
・ 集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと
・ 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること(救急科専門医等)
・ 必要に応じ、ドクタ-ヘリ、ドクタ-カ-を用いた救命救急医療を提供すること
・ 救命救急に係る病床の確保のため、一般病棟の病床を含め、医療機関全体としてベッド調整を行う等の院内の連携がとられていること
・ 急性期のリハビリテ-ションを実施すること
・ 急性期を経た後も、重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症がある患者、人工呼吸器による管理を必要とする患者等の、特別な管理が必要なため退院が困難な患者を転棟、転院できる体制にあること
・ 実施基準の円滑な運用・改善及び地域のメディカルコントロ-ル体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと
・ DMAT※派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと
・ 救急医療情報センタ-を通じて、診療機能を住民・救急搬送機関等に周知していること
・ 医師、看護師等の医療従事者に対し、必要な研修を行う体制を有し、研修等を通じ、地域の救命救急医療の充実強化に協力していること
・ 救急救命士の気管挿管・薬剤投与等の病院実習や、就業前研修、再教育などに協力していること
・ 「救急病院等を定める省令」によって定められる救急病院であること
※ DMAT(災害派遣医療チ-ム)については災害時における医療体制の構築指針を参照。
(2-2) 入院を要する救急医療を担う医療機関(第二次救急医療)の機能【入院救急医療】
① 目標
・ 24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること
・ 傷病者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
地域で発生する救急患者への初期診療を行い、必要に応じて入院治療を行う。医療機関によっては、脳卒中、急性心筋梗塞等に対する医療等、自施設で対応可能な範囲において高度な専門的診療を担う。また、自施設では対応困難な救急患者については、必要な救命処置を行った後、速やかに、救命救急医療を担う医療機関等へ紹介する。救急救命士等への教育機能も一部担う。
・ 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること
・ 救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること
・ 救急医療を要する傷病者のために優先的に使用される病床または専用病床を有すること
・ 救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること
・ 急性期にある患者に対して、必要に応じて早期のリハビリテ-ションを実施すること
・ 初期救急医療機関と連携していること
・ 当該病院では対応できない重症救急患者への対応に備え、近隣のより適切な医療機関と連携していること
・ 救急医療情報センタ-を通じて、診療可能な日時や、診療機能を住民・救急搬送機関に周知していること
・ 医師、看護師、救急救命士等の医療従事者に対し、必要な研修を行うこと
・ 「救急病院等を定める省令」によって定められる救急病院であること
③ 医療機関の例
・ 二次輪番病院、共同利用型病院
・ 一年を通じて診療科にとらわれず救急医療を担う病院又は有床診療所
・ 地域医療支援病院(救命救急センタ-を有さない)
・ 脳卒中や急性心筋梗塞等に対する急性期の専門的医療を担う病院又は有床診療所
(2-3) 初期救急医療を担う医療機関の機能【初期救急医療】
① 目標
・ 傷病者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
主に、独歩で来院する軽度の救急患者への夜間及び休日における外来診療を行う。
・ 救急医療の必要な患者に対し、外来診療を提供すること
・ 休日・夜間急患センタ-の設置や、在宅当番医制などと合わせて、地域で診療の空白時間が生じないように努めること
・ 病態に応じて速やかに患者を紹介できるよう、近隣の医療機関と連携していること
・ 自治体等との連携の上、診療可能時間や対応可能な診療科等について住民等に周知していること
③ 医療機関の例
・ 休日・夜間急患センタ-
・ 休日や夜間に対応できる診療所
・ 在宅当番医制に参加する診療所
(3) 救命救急医療機関等からの転院を受け入れる機能【救命期後医療】
① 目標
・ 在宅等での療養を望む患者に対し医療機関からの退院を支援すること
・ 合併症、後遺症のある患者に対して慢性期の医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
・ 救急医療機関と連携し、人工呼吸器が必要な患者や、気管切開等のある患者を受け入れる体制を整備していること
・ 重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症を持つ患者を受け入れる体制を整備していること
・ 救命期を脱した救急患者で、精神疾患と身体疾患を合併した患者を受け入れる体制を整備していること
・ 生活機能の維持及び向上のためのリハビリテ-ション(訪問及び通所リハビリテ-ションを含む)が実施可能であること
・日常生活動作(ADL)の低下した患者に対し、在宅等での包括的な支援を行う体制を確保していること
・ 通院困難な患者の場合、訪問看護ステ-ション、薬局等と連携して在宅医療を実施すること、また居宅介護サ-ビスを調整すること
・ 救急医療機関及び在宅での療養を支援する医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
・ 診療所等の維持期における他の医療機関と、診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
③ 医療機関等の例
・ 療養病床を有する病院
・ 精神病床を有する病院
・ 回復期リハビリテ-ション病棟を有する病院
・ 診療所
・ 訪問看護ステ-ション


第3 構築の具体的な手順

1 現状の把握
都道府県は、救急医療の体制を構築するに当たって、(1)~(3)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握する。
さらに、(4)に示す、医療機能ごとおよびストラクチャ-・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握する。
なお、(1)~(4)の各項目について、参考として調査名や担当部局を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 救急患者動向に関する情報の収集
・ 救急搬送患者数(年齢別・性別・疾患別・重症度別)(消防防災主管部局)
・ 救急車により搬送された入院患者の流入割合、流出割合(患者調査)
・ 搬送先医療機関(年齢別・性別・疾患別・重症度別、応需率等)(消防防災主管部局、衛生主管部局)
(2) 救急医療の医療資源に関する情報の収集
・ 病院前救護活動(救急救命士の数等)(消防防災主管部局)
・ 搬送手段に係わる情報(救急車、ドクタ-カ-、ドクタ-ヘリ、消防防災ヘリコプタ-等の活用状況)(消防防災主管部局、衛生主管部局)
・ 救急医療に携わる施設とその位置(衛生主管部局)
・ 医療機関の機能(対応可能な疾患・診療科を含む。)と体制(衛生主管部局)
・ 救急医療機関の人員(衛生主管部局)
(3) 救急医療連携に関する情報の収集
① 救急搬送等
・ 地域メディカルコントロ-ル協議会の活動状況(協議会の開催頻度、事後検証の実施症例数、救急救命士の病院実習の実施状況等)
・ 救急車で搬送する病院が決定するまでに、要請開始から、例えば30分以上、あるいは4医療機関以上に要請を行った、一定期間における件数とその原因分析、全搬送件数に占める割合
・ 救急要請(覚知)から救急医療機関へ収容するまでに要した平均時間
・ 救急要請から救命救急センタ-への搬送までに要した平均時間
・ 救命救急センタ-等の各救急医療機関において、消防機関からの救急搬送受入要請に対して実際に受け入れた人員の割合
・ 1時間以内に救命救急センタ-に搬送可能な地域の人口カバ-率
② 救急医療に関連する施設の連携状況
・ 救急医療機関への搬送手段および搬送元の分類(現場からの搬送、転院搬送)
・ 救急医療機関に搬送された救急患者の退院経路
(4) 指標による現状把握
別表6に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャ-・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載する。その際、公的統計等により全都道府県で入手可能な指標(必須指標)と、独自調査やデ-タ解析等により入手可能な指標(推奨指標)に留意して、把握すること。

2 圏域の設定
(1) 都道府県は、救急医療体制を構築するに当たって、「第2 医療機関とその連携」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、重傷度・緊急度に応じた医療機能を明確にして、圏域を設定する。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
ただし救命救急医療について、一定のアクセス時間内に当該医療機関に搬送できるように圏域を設定することが望ましい。
(3) 検討を行う場合は、地域医師会等の医療関係団体、現に救急医療・救急搬送に従事する者、消防防災主管部局、メディカルコントロ-ル協議会、住民・患者、市町村等の各代表が参画する。

3 連携の検討
(1) 都道府県は、救急医療体制を構築するに当たって、患者の重症度・緊急度に応じて適切な医療が提供されるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮する。
また、医療機関、消防機関、消防防災主管部局、地域医師会等の関係者は、診療情報(提供可能な救急医療等)の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努める。
(2) 保健所は、「地域保健法第4条第1項の規定に基づく地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(平成6年厚生省告示第374号)の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」(平成19年7月20日付け健総発第0720001号健康局総務課長通知)を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互又は医療機関と消防機関との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関の名称を記載する。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めるものとする。

4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療機関とその連携」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の救急医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載する。
その際、現状把握に用いたストラクチャ-・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出する。

5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な救急医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する時間を設定し、医療計画に記載する。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国デ-タ等を参考にするとともに、基本方針第7に掲げる諸計画に定められる目標を勘案するものとする。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定することとする。

6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載する。

7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載する。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも5年ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更することとする。

8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表する。その際、広く住民に周知を図るよう努めるものとする。


1 消防庁「平成23年版 救急・救助の現況」(平成23年)
2 消防庁「平成22年度 救急業務高度化推進検討会報告書」(平成22年)
3 厚生労働省「患者調査」(平成20年)
4 消防庁「救急需要対策に関する検討会 報告書」(平成18年)
5 消防庁「社会全体で共有する緊急度判定(トリア-ジ)体系のあり方検討会」(平成23年)
6 厚生労働科学研究「精神科医療、とくに身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(主任研究者 黒澤尚)(平成19年)
7 厚生労働科学研究「精神科病棟における患者像と医療内容に関する研究」(主任研究者 保坂隆)(平成18年)
8 厚生労働科学研究「循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究」(主任研究者 丸川征四郎)(平成22年度)
9 平成21年度救急救命の高度化の推進に関する調査研究事業「メディカルコントロ-ルの地域格差に関する研究」(財団法人 救急振興財団)
10 消防庁「平成22年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果」(平成23年)
11 厚生労働省「救急医療対策事業調査」(平成22年)