2 盲・聾・養護学校における日常的な医療の提供を巡る現在の状況


[通知] 盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)
別添1 盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の医学的・法律学的整理に関する取りまとめ

2 盲・聾・養護学校における日常的な医療の提供を巡る現在の状況


(1) 現行の法規制

○ 医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない」と規定している。行政解釈上、「医業」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことと解釈されている。

○ また、保健師助産師看護師法上、看護師が行う医行為は診療の補助行為に位置付けられるものと解釈されておりi、その他の医療関係の資格を有する者が行う医行為も、同様の位置付けを与えられている。

○ したがって、医療関係の資格を保有しない者が医行為を業として行うことは一般的に禁止されている。


(2) ALS分科会報告書を踏まえた行政的対応

○ 在宅で療養しているALS患者のたんの吸引については、当該行為が患者の身体に及ぼす危険性にかんがみ、原則として、医師又は看護職員が行うべきものとされてきた。しかし、在宅のALS患者にとっては、頻繁にたんの吸引が必要であることから、家族が24時間体制で介護を行っているなど、患者・家族の負担が非常に大きくなっており、その負担の軽減を図ることが求められていた。

○ 平成15年6月、「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」は、報告書をとりまとめた。この報告書では、在宅で療養しているALS患者に対するたんの吸引行為について、基本的には医師又は看護職員が行うことを原則としつつも、3年後に、見直しの要否について確認することを前提に、医師の関与やたんの吸引を行う者に対する訓練、患者の同意など一定の要件を満たしていれば、家族以外の者が実施することもやむを得ないものとされた。なお、家族以外の者が実施するたんの吸引は、当面やむを得ない措置として実施するものであって、ホームヘルパー業務として位置付けられるものではないとされている。その後、行政の実務においても、同旨の医政局長通知(平成15年7月17日医政発第0717001号)が発出された。

○ これは、ALS患者の在宅療養という限定された状況において、一定の厳格な条件を満たしていれば、たんの吸引という医行為を家族以外の者が実施しても、医師法第17条との関係では違法性が阻却されるものとして取り扱ったものである。


(3) モデル事業等の現状及び評価

○ 近年の医学・医療技術の進歩やノーマライゼーションの理念の普及などを背景に、盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の必要性が高い児童生徒等の割合が増加しつつある。iこのため、盲・聾・養護学校において、障害のある子どもの教育を受ける権利や、その前提として安全かつ適切な医療・看護を受ける権利を保障する体制を整備する必要性が高まってきている。しかし、たんの吸引等は現状では医師若しくは看護職員又は保護者が行うとされており、これらの児童生徒等が医療関係者の配置されていない盲・聾・養護学校に通学するためには保護者の付き添いが必要となる。保護者の負担の軽減という観点からも、盲・聾・養護学校における体制整備の必要性が指摘されている。

○ このような事情から、文部科学省では、厚生労働省と各県教育委員会の協力を得て、平成10年度からモデル事業等を実施し、盲・聾・養護学校における医療のニーズの高い児童生徒等に対する教育・医療提供体制の在り方を探ってきた。

○ モデル事業等では、非医療関係者が医行為を実施する場合の危険性やこれらの行為が必要となる頻度を踏まえ、「咽頭より手前の吸引」、「咳や嘔吐、喘鳴等の問題のない児童生徒で、留置されている管からの注入による経管栄養(ただし、経管の先端位置の聴診器による判断は除く)」及び「自己導尿の補助」の3つの行為に限定し、どのような医療体制の下で、どのような手続きを踏んで、どこまでの行為を教員が行うことが適当か、また、看護師と教員の連携の在り方、医療・福祉の関係機関と連携した望ましい医療体制の在り方等について研究を行った。

○ 医療安全面については、医療事故の発生の報告はなく、看護師と教員の連携の中で円滑にたんの吸引等が実施できた。また、医療安全面の体制の充実という観点では、①県レベルでの実施体制の整備を図ったことにより地域の医療機関からの協力が得られた、②看護師が学校に常駐しているため、教員が児童生徒等に対する医療上の配慮や健康状態について相談することや、たんの吸引等に関する知識、手技についての研修を受けることが容易になり、教員が安心してたんの吸引等に従事できた、③健康管理、健康指導が充実するとともに、これに携わる教員の資質の向上、予見・注意義務の徹底による教員の危機管理意識の高揚を図ることができた、④緊急時の医療機関との連絡体制が整備された、等の効果が観察された。

○ 教育面では、医療が安全に提供されたことにより、授業の継続性の確保、訪問教育から通学への移行、登校日数の増加、親から離れて教育を受けることによる本人の自立性の向上、教育の基盤である児童生徒等と教員との信頼関係の向上、健康管理の充実、生活リズムの確立等の効果が観察された。

○ 保護者が安心して児童生徒を学校に通わせることができるようになり、また、たんの吸引等が必要になったときに備えて学校待機をする必要がなくなるなど、保護者の心理的・物理的負担の軽減効果も観察された。

○ したがって、医療関係者の間の指示系統が不明確であるなどいくつかの課題も指摘されているものの、モデル事業等の下では、関係者の協力により3つの行為は概ね安全に行い得ることが実証され、教育上の成果が上がったと評価することができる。