3 盲・聾・養護学校における医療の実施の要件及び法律的整理


[通知] 盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の取扱いについて(協力依頼)
別添1 盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の医学的・法律学的整理に関する取りまとめ

3 盲・聾・養護学校における医療の実施の要件及び法律的整理

医療に必要な知識・技能を有していない者が医行為を行うことは本質的に危険な行為であるため、医療に関する資格を有していない者が医行為を業として行うことは法律により禁止されている。一方、医療のニーズが高い児童生徒等を受け入れている盲・聾・養護学校においては、教育と医療が合わせて提供される必要がある。このため、盲・聾・養護学校に通う医療のニーズが高い児童生徒等の数が増加する中で、これらの児童生徒等の教育を受ける権利を保障するためには、看護師の適正な配置を進める必要がある。iしかし、必要な医行為のすべてを担当できるだけの看護師の配置を短期間のうちに行うことには困難があることも予想される。
したがって、看護師を中心としながら看護師と教員とが連携・協力して実施するモデル事業等の成果を踏まえ、こうした方式を盲・聾・養護学校全体に許容することは、医療安全の確保が確実になるような一定の条件の下では、やむを得ない。
なお、盲・聾・養護学校における看護師及び教員による医行為は、適切な医学的管理を前提に、学校長の統括の下、組織的に実施される必要がある。万一事故が発生したときの第一義的な責任は学校にあると考えられるが、具体的な責任の所在は事故の形態や過失の程度によって変わり得る。


(1) モデル事業等において教員に認められていた行為を盲・聾・養護学校全体に許容する場合の要件
モデル事業等の対象となったたんの吸引等には医療関係者が行うのでなければ危険を伴う部分があるため、モデル事業等において教員に認められていた行為を盲・聾・養護学校全体に許容する上では、看護師の適正な配置等による医療関係者の関与など必要な条件を明らかにしておく必要がある。
以下において、モデル事業等における評価を踏まえ、教員が行うことが許容される医行為の範囲と、それらを適正に実施するための条件を示す。
(ア) 教員が行うことが許容される行為の範囲
・ 医行為は医療関係者が行うのが原則であり、教員は医療の専門家としての訓練を受けていない。このため、モデル事業等では、教員が行える行為は、他の行為に比べ、医療関係者との協力の下では相対的に危険性の程度が低く、また、日常的に行われる頻度が高いと考えられた範囲(①咽頭より手前のたんの吸引、②咳や嘔吐、喘鳴等の問題のない児童生徒で留置されている管からの注入による経管栄養、③自己導尿の補助)に限定されている。
・ たんの吸引、経管栄養、自己導尿の補助という3つの行為は、モデル事業等における要件の下では、概ね安全に実施されているものと認められる。ただし、その前提として、3つの行為の内容について一定の共通理解が存在することが不可欠であると考えられるため、これら3つの行為の標準的手順と、医療関係者との連携を含む一定の条件の下で教員が行うことが許容される行為の標準的な範囲を別紙1に示す。
・ なお、胃ろう・腸ろうによる経管栄養については、モデル事業等の対象として明示されていないが、鼻腔を経由しての経管栄養に比べ、医学的に見ても相対的に安全であるとの評価が定着している。肉芽などの問題がある場合の衛生管理は看護師が行う等の条件が整っていれば、胃ろう・腸ろうからの食物・栄養物の注入を教員が行ったとしても、安全が確保できると考えられる。このため、盲・聾・養護学校において教員が行い得る経管栄養に含めて考えて差し支えない。
・ 導尿については、モデル事業等では、児童生徒等が自ら導尿を行う場合の教員の補助を念頭に、「自己導尿の補助」を教員が行うことが許されることとされていたが、その部分の記述だけでは必ずしも導尿の手順全体が明らかにならないので、この報告では、モデル事業等の成果を踏まえつつ、導尿の手順全体を記述した上で看護師が行うべき部分と、教員が行うことも認められる部分とを明らかにしている。
(イ) 非医療関係者である教員がたんの吸引等を実施する上で必要であると考えられる条件
・ 非医療関係者である教員がたんの吸引等を実施する上で、本来、教員は医行為を行う職種としての専門的訓練を受けていないことから慎重な対応が求められ、その実施においても、危険をできるだけ減少させるため具体的方策を立てるとともに、責任の所在を明確にする必要がある。
・ したがって、盲・聾・養護学校においてたんの吸引等を安全かつ適切に実施するためには、非医療関係者である教員がたんの吸引等を行うことに鑑み、教員の希望等を踏まえるなど十分な理解を得た上で、必要な研修を行い、上記の標準的な手順を参考に、医師の承認の下、保護者及び学校長の了解した範囲の行為のみを実施することが必要である。また、医療関係者間の指示系統の明確化を含め適正な医学的管理の確保のための条件を整える必要がある。
・ 特に看護師の配置は重要な要素であり、児童生徒等が学校に滞在している間、重度障害児の看護に経験を有する看護師が適正に配置されるとともに、医療機器の整備を含め学校内の医療安全体制に関与する仕組みとする必要がある。
・ また、養護学校においては、校内感染の予防に注意する必要があり、看護師等医療関係者による適切な感染管理が行われることが不可欠である。
・ 上記の課題を踏まえ、非医療関係者である教員が医行為を実施する上で必要であると考えられる条件は、別紙2の通りである。


(2) 法律的整理
(ア) 実質的違法性阻却
・ すでに述べたとおり、医師法第17条は、医師以外の者が医行為を反復継続する意思をもって行うことを禁止している。教員によるたんの吸引等の行為も、その本来の業務であるか否かを問わず、反復継続している以上医業に該当し、形式的には医師法第17条違反の構成要件に該当する部分がある。
・ しかし、構成要件に該当していたとしても、当該行為の目的が正当であり手段が相当であることなどの条件を満たしていれば、違法性が阻却されることがあり得ることは、学説・判例が認めるところである。
・ 前出のALS分科会報告書は、医療の資格を持たないホームヘルパー等がたんの吸引を行えば形式的には医師法第17条違反の構成要件に該当するが、当該行為が在宅のALS患者とその家族の負担を軽減するという目的のため、医師の関与や患者の同意、たんの吸引を行う者に対する訓練などALS分科会報告書によって明示された条件を満たして行われているのであれば、実質的に違法性が阻却されるという考え方に基づいているものと考えられる。
・ 医師法第17条の究極の目的は国民の健康な生活の確保であり、この趣旨を没却するような解釈は許されない。しかし、現在の盲・聾・養護学校をとりまく状況を前提とすると、盲・聾・養護学校の児童生徒等に適切な医療を提供しつつ教育を受けさせるためには、この報告が検討の対象としている盲・聾・養護学校におけるたんの吸引等の行為についてもALS分科会報告書と同様の違法性阻却の考え方を当てはめることは法律的には許容されるのではないかと考えられる。
(イ) 判例の示す違法性阻却の5条件
・ 刑罰法規一般について、判例が実質的違法性阻却事由としてほぼ共通に挙げる条件は、①目的の正当性(単に行為者の心情・動機を問題にするのではなく、実際に行われる行為が客観的な価値を担っていること)、②手段の相当性(具体的な事情をもとに、「どの程度の行為まで許容されるか」を検討した結果として、手段が相当であること)、③法益衡量(特定の行為による法益侵害と、その行為を行うことにより達成されることとなる法益とを比較した結果、相対的に後者の法益の方が重要であること)、④法益侵害の相対的軽微性(当該行為による法益侵害が相対的に軽微であること)、⑤必要性・緊急性(法益侵害の程度に応じた必要性・緊急性が存在すること)である。i今回の問題についても、実質的違法性阻却を説明する上では、これらの実務上の5つの要件該当性を確認することが適当である。
・ 以下で、上の5つの条件について、たんの吸引等を医療関係者でない教員が行うことと医師法第17条との関係についてみる。
・ 目的の正当性についてみると、盲・聾・養護学校において教員がたんの吸引等を限定された範囲で行うのは、児童生徒等が盲・聾・養護学校において教育を受けることができるようにするためであり、憲法第26条の教育を受ける権利の実質的な保障のための措置であること、また、保護者の負担の軽減のためでもあることから、単に関係者の一方的な善意のみではない客観的な価値を担っているということができる。
・ 手段の相当性についてみると、教員が行うたんの吸引等は、別紙1に掲げる範囲で、医療関係者の関与など別紙2の条件を守って行われる場合には、医療の安全が十分に確保され、手段として相当であるということができる。
・ 法益衡量についてみると、医療のニーズの高い児童生徒等が盲・聾・養護学校において医療の安全を確保した上で教育を受けることができるようになるという利益と、医療関係者ではない一般の教員が一定の限定された範囲の医行為を行った場合の法益侵害とを比較すると、上記の手段の相当性、下記の法益侵害の相対的軽微性と合わせて考えれば、前者の利益の方が後者の法益侵害よりも大きいのではないかと考えられる。
・ 法益侵害の相対的軽微性についてみると、今回の措置は、盲・聾・養護学校という限定された場で、児童生徒等が必要とする医療のうち必要な条件を整えれば医療に関する資格を有していない教員であっても安全に実施できると考えられるものだけを、看護師の常駐の下で、児童生徒等及び保護者の信頼を得た特定の教員が必要な研修を受けた上で行うものである。したがって、無資格医業を助長するものではなく、公衆衛生上の危険は相対的に小さいと考えることができる。i
・ 必要性・緊急性についてみると、盲・聾・養護学校の現在の職員配置を前提とすれば、児童生徒等に対し教育を提供していく上で、教員がたんの吸引等を行う必要性があり、かつ、それらの行為を緊急に実施することが不可欠である。
・ したがって、判例から抽出された上記の5つの条件に照らしてみても、教員によるたんの吸引等は、医師法第17条との関係では違法性が阻却されるものと考えられる。


(3) 環境の変化に応じた見直し
○ 今回の考え方の整理は、現状及びこれまでの知見を念頭に置いたものであり、医療を必要とする児童生徒等を取り巻く環境の変化に応じて適宜見直す必要がある。また、盲・聾・養護学校全体に教員によるたんの吸引等を許容する上では、モデル事業等の成果や本報告の趣旨が関係者に周知徹底されるようきめ細かな研修を行うとともに、実施状況の点検・評価等を通じ医療安全の確保に十分配意することも重要である。このため、厚生労働省及び文部科学省は、盲・聾・養護学校における医療を必要とする児童生徒等の状況、看護師の配置状況、医療技術の進歩等の状況について、今後とも継続的に把握を行い適切に対応することが必要である。